激重シスコン皇帝は、勝ち気な姫に陥落する

翌日。
王家が悲しみに沈む中、
ビンセントは彼らのかわりに全てを動かした。

・海軍による遺体運搬の道の確保
・港町被災者への炊き出し
・救護所の設営
・葬儀の参列動線の整備

アズールティアの兵士たちは、
その手際の良さに驚嘆し、
次第に“皇帝陛下”として敬意を示すようになった。

葬儀の前夜、
カラムがビンセントに深く頭を下げる。

「……妻を、私たちのもとへ帰してくれて、心から感謝します。」

「礼はいらない。ベリル殿は私の姉の家族でもある。当然のことをしたまでだ」
その言葉に、
カラムは涙をこらえながら微笑んだ。

そしてしめやかに行われた葬儀のあと、
疲れ切ったルチアは
灯火だけが揺れる部屋でひとり座り込んでいた。

「……私、もっと……お姉様と話したかったのに。」

ビンセントは黙ってルチアの隣に座り、
彼女が限界になるまで、
何も言わず寄り添っていた。

やがて、ルチアの肩が震え出す。
「どうして……あんなに優しい人が……どうして……!」

その悲痛な叫びを、
ビンセントはルチアごと抱き寄せる。

「泣け。今は泣いていい。
泣くことでしか、乗り越えられないこともある。」

ルチアは嗚咽を漏らしながら、
彼の胸に顔を埋めた。

「俺がいる。
お前が立ち上がれるまで、何度でも支える。
お前が望むなら、国だって海だって動かす。
――だから、もう一人で泣くな」
その言葉は、嵐の海を渡ってきたルチアの心に
深く深く沈んでいった。
ビンセントは彼女の背中をゆっくり撫で、
涙が止まるまで腕を離さなかった。

悲しみの中でルチアは気づく。
――自分がこの男に身も心も囚われてしまったことを。

この港の夜、
二人の絆は、かつてなく強く結ばれていった。