激重シスコン皇帝は、勝ち気な姫に陥落する

ルチアは脇目も振らずに走って
塔の上までやって来た。
海風が吹き抜け、髪が乱れる。

ルチアは欄干にすがるようにして、
涙をこぼした。
(帰りたい……アズールティアに……)

その時、別の足音が響いた。

「ルチア!」
追ってきたビンセントが現れた。

「どうした。誰かに何か言われたのか?俺に言ってくれ、すぐに対処――」

「違うの!!」
ルチアは堰を切ったように叫んだ。

「……もう、疲れたの。
私、あなたの求婚を受け入れた覚えもないのに、周りは勝手に決めて……私は置いてけぼりだわ。」
「宝石もドレスもいらない!私が欲しいのはそんなものじゃない……!」

顔を覆い、震える声で続けた。

「あなたが、私の気持ちを考えてくれること……ただ、それだけなのに。
なのにあなたはいつも……大きな力で押し流してくるみたいで……ここにいるのが怖いのよ!」

彼女の涙は、ビンセントの胸に突き刺さった。
“愛しているから与える”つもりが、
“愛しているから縛る”になってしまっていた
――それを今、痛烈に悟る。

ビンセントはゆっくりと手を伸ばし、
ルチアの肩に触れた。
声は低く、震えていた。

「……気づけなくて、すまなかった。」
「俺は、お前を守りたくて……幸せにしたくて……
どうすることが“正しい”のか、分からなかった。」

風が二人の間を抜けていく。