激重シスコン皇帝は、勝ち気な姫に陥落する

「……姉上は、元気にしているか?」

姉の名が出た途端、
ビンセントの声色は驚くほど柔らかい。

ルチアは少し呆れつつも、素直に答えた。
「ええ。とても幸せそうよ。
毎日毎日、我が弟と仲睦まじくお過ごしだわ。」

「……そうか。」
短い返事ではあるが、
ビンセントはどこか嬉しそうだ。

ルチアは思わず吹き出しそうになった。
「本当に姉のこと大好きなのね」と。

しかしその次の瞬間、
ビンセントの瞳に深い影がさす。
「……俺は、皇帝の末子だった。
当時は継承権も低く、誰からも期待されなかった。
けれど母親の身分だけは高かったから、いつ政に利用され、消されるかも分からなかった。俺は……生き延びるだけで必死だった。」

言葉を紡ぐほど、
昔の恐怖が蘇ってくるようだった。
ビンセントの表情が暗くなっていく。

「後宮の中で、俺に手を差し伸べてくれたのは……姉上だけだった。母上は兄上にしか興味がなかったからな。でも姉上は無条件に、俺を守り、愛してくれた。」

「……」

「だから俺は、姉上を越える女など存在しないと、本気で思っていた。彼女以上の女性はいない。姉上が特別なのだと。そう思わなければ、誰かを信じるのが怖かった。」

その告白は、
皇帝という鎧を脱ぎ捨てた、
ひとりの青年の弱さそのものだった。

ルチアは息を呑む。

こんなにも誠実で脆い気持ちを、
公の場で――自分にだけに――見せるなんて。

胸の奥が、じんわりと熱くなる。