(勇、さん……?)
「大丈夫⁉︎ 目を覚まして良かった」
重い瞼をゆっくり開けるとぼんやりとした視界に勇の姿が映る。意識は次第に覚醒し、急に暑さを感じジージーと蝉の声が聞こえ始めた。
「焦ったよ。いきなり倒れるからさ。今、救急車呼ぼうか悩んでたんだ」
川沿いで勇希と話をしていた時に琴音は倒れてしまい、木陰に琴音を抱き抱え移動させ横にするも直ぐに目を覚ましたという。
「そうだったんだ、ごめんね」
「琴ちゃんが謝る事じゃないよ。それより起き上がれる?」
「大丈夫」
「じゃあ、もう帰ろう。送るよ」
「うん……あ、電話」
バックの中に入れていたスマートフォンの着信に気付き取り出し確認すると、蓮の名前が表示されていた。
勇希に「ちょっと出るね」と声を掛け応答ボタンを押す。
「もしもし、蓮くん……え、今? 今はーー」
「中里くん、なんだって?」
「今駅の近くに来てるみたいで、迎えに来てくれるって」
「ふ〜ん」
蓮からの電話に出ると驚いた事に駅の近くにいると言われ、琴音のいる場所を伝えると迎えに来てくれると言われた。更にその事を勇希に伝えると彼はどこかつまらなそうに返答をする。
「琴ちゃん」
暫く待っていると自転車に乗った蓮が現れた。暑い中走って来たせいで大分汗をかいている。
「帰ろう」
「うん。勇希くん、今日は付き合ってくれてありがとう。またね」
「うん、また連絡するから」
勇希と別れた琴音は自転車を押す蓮と横並びで歩き出す。
「蓮くん、駅に用事があったの?」
「うん」
「でもどうして近くにいるって分かったの?」
「カキ氷食べるって言ってたから」
声が自転車のカラカラ回るタイヤの音や風、周囲の騒音に掻き消される中、いつもより大きな声でゆっくりと会話をしながら真っ直ぐに前を見ている蓮の横顔を眺める。
「……楽しかった?」
「美味しかったよ」
「そうじゃなくて」
「だから、今度は蓮くんも一緒に行こう」
楽しかったと普通に言えばいいと自分でも思う。だが何となく蓮が面白くないのではないかと思いやめた。
「琴ちゃんと2人ならいいよ」
「えー勇希くんと3人じゃダメなの?」
「ダメ」
「せっかく友達になれたのに」
「友達なんかじゃないから」
昔から琴音以外の友達を作らずほぼ一匹狼の蓮にようやく友達が出来たと喜んでいたが、やはり本人は乗る気ではないようだ。
「……また、2人で遊ぶの?」
「え、勇希くんとって事?」
「そう」
「うん、多分」
まだ正式な約束はしていないが、夏休みの始まる前に遊ぶ約束をしている。先程もまた連絡すると言われたし恐らく遊ぶ事になるだろう。
「2人で遊ぶ時、ボクも誘って」
「でもさっき3人じゃ……」
「さっきはさっきだから。とにかく必ず誘う事。いいね?」
「う、うん、分かった」
先ほどとは態度を一変させた蓮に戸惑いながらも了承をすると、それを見届けた蓮は家の中に入って行ってしまった。



