翌日。
 玲央くんは我慢してくれたけど、
 内側では爆発寸前だと分かった。

(返事……しなきゃ……)

 でも先生の顔が浮かぶ。

(ちゃんと……伝えなきゃいけない……)

 玲央くんは校門の前で腕を組んで待っていた。

「七海」

「れ、玲央くん……」

 近づくと、
 周りを気にしながら歩いて人のいない道に入る。

「昨日の……続きな」

(また聞かれる……っ)

 彼は七海の手を握り、
 真正面に向き合わせる。

「七海。
 正式な返事、俺に聞かせろ」

 声が低くて、
 甘くて、
 逃げられない。

 でも私は震えながら言った。

「……その前に……
 先生に……ちゃんと話す」

 玲央くんは一瞬黙った。
 目を伏せ──そして、

「……そっか」

 七海の頭をそっと掻くように撫でる。

「ちゃんと筋通したいってことな」
「いいよ。
 行ってこい」

 そう言えたのは、
 七海がもう自分の方を向いてると分かっているから。

「終わったら……俺のところ来いよ」

「……うん」

放課後。
 七海は先生を呼び出した。

(言わなきゃ……
 ちゃんと……)

「先生……話があります」

「どうしたんだい、七海。
 最近元気なかったから……心配で」

 その優しさが切ない。

「先生……
 私……玲央くんが……好きです」

 言った瞬間、
 先生の表情が固まった。

「……そっか」

 たった一言。
 でも声が震えていた。

(ごめんなさい……先生……)

「ちゃんと……言ってくれてありがとう」
「……七海、
 幸せになりなさい」

 先生は笑った。
 泣きそうなのを隠すみたいに。

「……僕は……
 七海の恋を応援します」

 そう言って、
 ほんの少しだけ距離を置くように立ち位置を変えた。

 一歩。
 七海から離れる。

(……先生……)

 その後ろ姿が、
 少しだけ寂しそうだった。

 夕暮れの公園。
 玲央くんは待っていた。

「……話、してきた?」

「うん……全部……ちゃんと」

「そっか」

 七海を見る目が、
 優しい。

(言わなきゃ……
 私のほうから……)

 深呼吸して、
 震える手を胸に当てる。

「玲央くん」

「ん?」

「私……
 玲央くんが……好きです」

 言った瞬間、
 玲央くんは目を細めて笑った。

「……七海」

 抱き寄せられ、
 耳元で囁かれる。

「俺と……付き合え」

「……はい……」

 玲央くんの腕の中で、
 七海は涙を流しながら笑った。

これが、
 二人の恋の始まりだった。