玲央くんの腕の中から離れたあと、
 胸がずっとドクドクとうるさかった。

(さっき……
 玲央くん……
 “俺のになる気ある?”って……)

 顔が熱くなる。

(つ、付き合う……ってことだよね……?)

 意識した瞬間、心臓が跳ねて苦しい。

 スマホが震いた。
 玲央くんから。

〈今どこ〉
〈帰った?〉
〈話ある〉

(は、話って……
 あの……告白の続き……?)

 手が震える。
 でも会いたくて、
 足は勝手に事務所近くの公園へ向かった。

***

「七海」

 待っていた玲央くんは、
 今日のどの瞬間よりも真剣な顔をしていた。

「……あのさ」

 近づくと、
 手が触れそうな距離で立ち止まる。

「さっき言ったこと……
 本気だから」

「……うん……」

「七海」

 ゆっくり、
 私の手を取った。

「俺と……付き合う気、ある?」

「っ……!」

 心臓が、
 壊れそうなほど跳ねた。

「いや、気……じゃねぇな」
「七海。
 俺と付き合え」

「……!」

 真正面からの言葉。
 本気の目。
 逃げられない距離。

(ど、どうしよう……
 胸が苦しい……)

 返事をしようとして、
 喉が震える。

「七海。
 答えは……?」

(返事したい……
 したいのに……
 まだ言えない……)

「……ごめん……
 もう少しだけ……時間……ほしい……」

 俯くと、
 玲央くんはそっと私の顎を上げた。

「いいよ。
 でも……七海」

 低い声が胸に落ちる。

「そんな顔すんな。
 俺……お前泣かせたくねぇし」

 優しく頭を撫でられ、
 涙腺が緩む。

(あぁ……
 好き……)

 返事ができなくても——
 気持ちはもう決まっていた。