職員室の窓から見える夕焼けは、
 七海を連れ去られた廊下の色と同じだった。

(……七海)

 呼んだところで返事があるわけじゃない。
 でも、それでも名前がこぼれる。

(渡したかったのに……)

 机の上には、
 七海へ渡そうとしていた小さな袋。

 中には、
 七海が前に「可愛い」と言っていた
 小さな付箋とペン。

 ただの教師と生徒。
 それ以上じゃない。
 でも——

(あの時の顔は……
 どうしても忘れられない)

 七海が見せた、
 “恋して揺れてる表情”。

(昨日……
 何があった?)

 考えなくても分かる。
 玲央だ。

 先生の胸にだけ聞こえる声で、
 静かに呟く。

(……七海。
 あの男の腕の中にいるんだろうか)

 想像しただけで胸が軋む。

(七海……
 本当に……
 俺じゃない誰かを選ぶのか)

 それが
 “教師として”とかじゃなく、
 一人の男として苦しかった。

(七海……
 どうか、泣いていないでほしい)

 そう願うしかなかった。