授業をしながら、
 絶対に気づいてはいけないことに気づいてしまう。

(七海……
 今日ずっと、心ここにあらずだな……)

 ノートに目を落としたまま、
 返事が浅くて、瞼が揺れている。

(昨日、
 何があったんだ……)

 言ってはいけないと分かっていても、
 胸の奥で答えは一つだけだ。

(あの男……玲央。
 何かあったに決まってる)

 三角関係など、
 本来あってはならない。

 教師として、
 七海の恋愛に介入する資格なんてない。

 分かっている。
 分かっているのに。

(……俺が知らない“七海の夜”があるのか)

 胸が痛い。
 息が苦しい。

 七海が今、誰を思っているのか。
 その答えに触れてしまいそうで怖かった。

(七海……
 お前は今……
 誰の名前を呼びたいんだ)

 七海が少しだけ顔を上げた。
 その目は、
 誰かを恋して泣いたあとのように赤くて、
 胸が潰れそうになった。