——先生の優しさが胸に刺さり、玲央の存在が胸を熱くする

 授業中、黒板の文字をノートに写しているふりをしながら、
 私の視線は無意識に教壇へ向かっていた。

 はるま先生はいつも通り。
 淡々と、丁寧に、静かに授業を進めている。

(でも……どこか違う)

 昨日の夜のことも、
 今日の朝も。

 先生は私のことを気にしているのがわかる。
 黒板を向いているふりをして、
 時々ちらっとこっちを見る。

(やめて……
 そんな優しい目をされたら……苦しくなる……)

 私が揺れている理由も、
 気まずさの正体も、
 先生なら察してしまう気がした。

 その“罪悪感”をどうしても消せないまま、
 ふと視線を前に戻した瞬間。

 ——目が合った。

「…………」

 先生は一瞬だけ息を止めたように見えた。
 まるで心の底にしまい込んだ何かを押し殺すみたいに、
 その視線をゆっくり逸らした。

(先生……)

 胸の奥がきゅっと痛む。

 そんなとき、
 スマホが机の中で小さく振動した。

〈玲央〉
『終わったら来い。どっか連れてく』

(れ……玲央くん……)

 一瞬で頬が熱くなる。

 先生の優しさで胸が痛くなるのに、
 玲央くんのメッセージだけで息が苦しいほど胸が跳ねる。

(どうして……
 私はこんなふうに揺れてばかりなんだろう……)