『ドレスに宿る誓い』―Elara & Lanois 王国を変えた仕立て屋たち―

驚きつつも、
エルヴィンは彼女の邪魔にならないよう、
ゆっくり姿勢を整える。

「ここで描くの?」
「うん、描くの。動かないでね」
「はは……君には敵わないな」

エルヴィンは照れくさそうに笑いながらも、
シルヴィアが描きたいように描けるよう、
静かにその場に立ち続けた。

形を写すんじゃない。
魂を捉える。
私が見てきた“愛おしい彼”をそのまま紙に留める。

鉛筆の音が夜の静けさに溶けていく。
見つめ合いながらのデッサンは甘くて、
鼓動の音が聞こえそうで、
まるで二人だけの秘密の儀式のようだった。

線に、温度が宿る。
光に、息づかいが混ざる。

シルヴィアはようやく気づいた。

魂とは、技巧ではなく、
“愛しているという実感”そのものだと。

時が経つのも忘れて、
夢中で鉛筆を動かし続ける。
そして鉛筆を動かす手を止めた瞬間、
胸の奥からじわりと温かいものが溢れた。

「……描けた、かも。」

エルヴィンがそっと覗き込み、
目を見開く。
「……これ、俺なの?」
声が震えている。
「シルヴィア……すごいよ。こんな顔、君にしか描けない。君には俺がこんな風に見えているんだね。」

その夜の帰り道、
シルヴィアはスケッチブックを抱きしめながら、
ずっと胸の奥が熱くて仕方なかった。