『ドレスに宿る誓い』―Elara & Lanois 王国を変えた仕立て屋たち―

胸の奥がゆっくりほどけていくように、
シルヴィアは思わず彼を見つめ返した。
すると、
なぜだかいつもより
エルヴィンの顔がはっきりと見える。

月明かりの下だから?
それともエルヴィンの言う通り、
「綺麗に描かなきゃ」と気負いすぎて
心の目が曇ってしまっていたのだろうか。

「エルヴィン様……そんな顔、してたのね」
「どんな顔?」
「……すごく、私を大事にしてる顔」

シルヴィアの指先が、
彼の頬にそっと触れた。
エルヴィンは驚いたように目を見開き、
次の瞬間、
ふっと笑って彼女の手に口づける。

「君が大事なのは、当たり前だろ」

その低い声に、
シルヴィアの心臓がドキッとなる。

胸の奥が熱を帯び、
脈が速くなる。

――ああ。
私が描きたいのは、この表情なんだ。

彼が私だけに向けてくれる、
深くて、優しいまなざし。

「あなたのこの表情……描きたい」
思わずこぼれた声に、
エルヴィンは瞬きをした。

「今?」
「うん。今のあなたを、逃したくないの」

シルヴィアはなんとなく持ってきていた
スケッチ帳をその場で取り出し、
月明かりの下、
迷いなく鉛筆を走らせ始めた。