『ドレスに宿る誓い』―Elara & Lanois 王国を変えた仕立て屋たち―

アトリエの中は、光が踊っていた。
大きな窓、無造作に置かれたキャンバスとパレット、
リディアが描きかけている風景画。

「あなた、手を動かすのは好き?」

「……得意ではないけれど、嫌いじゃないです。」

「ふふ。じゃあ描いてみる?」

戸惑うシルヴィアを、
リディアは温かい目で見つめた。

最初は本当に拙い線だった。
震えるような細い線、
薄く置かれた色。

だが──リディアは途中でふいに筆を止め、言った。

「……あなた、面白いわね。」

「え?」

「見えているものが、人と違う。
光の“揺れ”をそのまま線に出す人は少ないのよ。」

リディアに褒められて、
シルヴィアはついつい嬉しくなる。
誰かにこんなふうに認められたのは、
生涯で初めてかもしれなかった。

「ねえ、シルヴィア。
良かったら……絵を習うだけではなくて、少しの間、私のアシスタントをしてみない?」

「わ、私が……ですか?」

「ええ。描き方はゆっくり教えるわ。
あなたには伸びる余地が山ほどある。
なにより──あなたの目は、私の好み。」

リディアは、楽しそうに笑った。

シルヴィアの心に、小さな灯りがともった。

「……お願いします。やってみたいです。」

この瞬間、
“新しいシルヴィア” が動き出した。