数日後。
ラノイ侯爵家の玄関前に、
興奮したような声が響いた。

「どうしても、お会いしたいのです!若奥様に!」

なんと先日のバイロンが、
直接やって来たのだ。

突然の来訪に執事が困惑する中、
応対に出た義母・ラノイ侯爵夫人は
バイロンを追い返そうとした。

しかし「モデル料の御礼はたっぷり弾みます!」
その言葉を聞いた瞬間、
表情を驚くほど華やかに変えた。

「まあ、それは素敵なお話じゃないの。
 シルヴィア、あなたやってあげなさいな!家のためにもなるのよ?」

「で、ですが……私、そんなことやったことがございませんし。本当に向いていません……」

「だめよ、断らないで。
 あなた、嫁に来たのだから、この家に貢献すべきでしょう?」

まるで結論は初めから決まっていたかのように、
義母はシルヴィアの腕を取った。

バイロンはほほ笑みながら深々と頭を下げる。
「必ず後悔はさせません。
 あなたは、私の“運命のミューズ”なのですから」

その瞬間――
シルヴィアの胸の奥で、何かが静かに軋んだ。

自分の意志などどこにもない。
エルヴィンの妻としても、
侯爵家の嫁としても。
そして今度は、
バイロンという男の“理想”のために。