シルヴィアを匿った馬車が動き出したのは、
空がまだ藍色で、
夜明け前の薄闇が漂うそんな頃だった。
検問所は一夜を明かした
寝不足の兵たちで緩んでいる。
クラウスは馬車の御者台に座り、
震える唇で必死に言葉を紡いだ。
「ウィ、ウィステリアに帰らせてください!
革命のせいで足止めされて……家族が、待っているんです……!」
兵士は眉をひそめ、
身分証をしげしげと眺めた。
「たしかにこいつの名前はユーフォルビアの貴族名簿に載ってねぇ。……身分証も本物だ。
だが念のため馬車を調べる」
兵士は馬車に乗り込み、
荷物を押し退け、踏みつけ、叩いた。
二重底の下でシルヴィアは息を止め、
心臓の音さえ恐れていた。
どうか見つかりませんように!
「……ふむ。怪しいものは——」
と、その時。
「交代だぁ!!」
大声が響き、
複数の兵士たちが検問所に駆け込んできた。
「ほらほら、もう交代時間だ。あとは俺らがやる」
「お前ら、さっさと持ち場を離れろ!帰ってゆっくり休め!」
押し出されるように当番の兵士たちは追い立てられ、
馬車の検査は否応なく中断された。
妙に勘が鋭く、気の強い兵士が
未練たらしく振り返る。
「まだ調べ足りねえ気が……」
「身分確認は済んだんだろ?
俺たちの目的はユーフォルビア貴族を捕まえることだ。ウィステリア国民を足止めする理由はない。あのくたびれたおっさんの顔を見てみろ。さっさと行かせてやれ」
交代にやって来た兵士たちに
ぐいぐいと押し切られる形で
兵士は渋々と頷いた。
空がまだ藍色で、
夜明け前の薄闇が漂うそんな頃だった。
検問所は一夜を明かした
寝不足の兵たちで緩んでいる。
クラウスは馬車の御者台に座り、
震える唇で必死に言葉を紡いだ。
「ウィ、ウィステリアに帰らせてください!
革命のせいで足止めされて……家族が、待っているんです……!」
兵士は眉をひそめ、
身分証をしげしげと眺めた。
「たしかにこいつの名前はユーフォルビアの貴族名簿に載ってねぇ。……身分証も本物だ。
だが念のため馬車を調べる」
兵士は馬車に乗り込み、
荷物を押し退け、踏みつけ、叩いた。
二重底の下でシルヴィアは息を止め、
心臓の音さえ恐れていた。
どうか見つかりませんように!
「……ふむ。怪しいものは——」
と、その時。
「交代だぁ!!」
大声が響き、
複数の兵士たちが検問所に駆け込んできた。
「ほらほら、もう交代時間だ。あとは俺らがやる」
「お前ら、さっさと持ち場を離れろ!帰ってゆっくり休め!」
押し出されるように当番の兵士たちは追い立てられ、
馬車の検査は否応なく中断された。
妙に勘が鋭く、気の強い兵士が
未練たらしく振り返る。
「まだ調べ足りねえ気が……」
「身分確認は済んだんだろ?
俺たちの目的はユーフォルビア貴族を捕まえることだ。ウィステリア国民を足止めする理由はない。あのくたびれたおっさんの顔を見てみろ。さっさと行かせてやれ」
交代にやって来た兵士たちに
ぐいぐいと押し切られる形で
兵士は渋々と頷いた。



