『ドレスに宿る誓い』―Elara & Lanois 王国を変えた仕立て屋たち―

元ラノイ侯爵領を出て数日。
エルヴィン、シルヴィア、クラウスの三人は、
ついに北の国境地帯に到達した。

革命派から逃れるため、
街道を外れ森を抜け、
沼地に馬車の車輪を取られ、
雨に濡れながら眠れぬ夜を越えて……
幾度も危機に瀕しながら、
ようやくここまで来たのだ。

しかし、
国境の関所こそがこの旅最大の難関だった。
革命派の検問が敷かれ、
通行証のない者は
即刻拘束されると噂されている。

シルヴィアは震える指先を必死で押さえつけ、
クラウスは落ち着かない視線を
馬車の窓に向けていた。

その二人をよそにただ一人、
エルヴィンだけが静かだった。
胸に忍ばせた、
ウィリアム国王の側近からの手紙を思い返す。

『国境で蓮の花を待て』

手紙の最後にあった、
たったそれだけの走り書き。
蓮の花とは何か、誰を指すのか、どんな合図なのか
──エルヴィンには分からない。

しかし。
ウィリアム国王が
「必要があれば力になる」と言ってくれたことを、
彼は信じていた。

他の二人に不安を見せまいと、
静かに手綱を握りしめる。

その時だった。

「止まれ!」

道の真ん中に、
赤い徽章をつけた男たちが立ちはだかった。