『ドレスに宿る誓い』―Elara & Lanois 王国を変えた仕立て屋たち―

領民たちがエルヴィンを逃がすための
準備に奔走している間、

パン屋の女将は
エルヴィン、シルヴィア、クラウスを
自分の家に連れていき、
温かいホットワインを差し出した。

「とても貴重なものなんじゃないのか?」
ホットワインを見て、
エルヴィンが動揺する。
ラノイ侯爵領は土地が痩せていて
領民たちも決して裕福ではない。

「いいさね。エルヴィン様にはずっとお世話になったしさ。せめてものお礼だよ。」

「そうか。ありがとう。」
エルヴィンがホットワインに口をつけたのを見て、
シルヴィアとクラウスもそれに続く。
寒さと恐怖で凍えきった身体を
じんわりと温めてくれる優しい味がした。

「王都の様子は伝わってきているか?」

「王宮が襲われてもう1週間が経つけれど、私らに伝わってきているのは国王一家が捕らえられたってことくらいだよ。」

「国王一家の処刑は免れないでしょうね。」
女将さんの話を受けて、
クラウスがぽつりと呟く。

「お子様たちだけでも助からないのでしょうか。」

「まず無理だろうな。もしかしたら未成年のシャルロット様とダミアン様は助かるかもしれないが……既にご成人されているデルフィーヌ様とドミニク様は厳しい。それにダミアン様も生き残れたとして、いつ誰に利用されるか分からない。王政復古の旗印に担ぎ上げられるかもしれない。そう判断されれば、まだ幼い王太子様にはおいたわしいが……」
エルヴィンは顔を曇らせる。