社交の季節が始まり、
エルヴィンとシルヴィアは結婚後初めて、
夫婦として夜会に招かれた。
煌びやかなシャンデリア、
絹のドレスが揺れ、
視線が渦巻く大広間。
昼間の日差しほどではないとはいえ、
熱気と喧騒の中に長く立っているだけで、
シルヴィアの皮膚は
じんわりと赤みを帯び始めていた。
――早く帰りたい。
胸の奥で小さな願いがうずく。
誰かの視線を感じるたびに、
気味が悪いと思われているんじゃないかと
不安な気持ちに駆られるのだ。
エルヴィンは時折、
気遣わしげに目を向けてくれるものの、
やはり言葉は少ない。
「無理をしないでいい」と短く告げるだけで、
シルヴィアの手を引いて
大広間から連れ出してくれるわけでもない。
彼が悪いわけではないのに、
シルヴィアはまた勝手に胸を締めつけられた。
夫は嫌っているわけではない。
けれど――好かれているとも思えない。
そんなモヤモヤした気持ちに
囚われていた時だった。
「……失礼。あなたに、ご挨拶をしても?」
背後から、どこか熱を帯びた声がした。
シルヴィアが驚いて振り返ると、
濡れた黒曜石のような瞳を持つ青年が
シルヴィアを見つめて微笑んでいる。
「わたしはバイロン・クレメンス。デザイナーをやっています」
その青年は、シルヴィアを見るなり
恍惚の表情で息を呑んだ。
「……なんて、美しい。
まさに……貴女はまさに私が探していた“ミューズ”だ」
「――え?」
シルヴィアは心底驚き、
戸惑って首を振る。
美しい――そんな言葉、
彼女の生涯でほとんど聞いたことがなかった。
エルヴィンとシルヴィアは結婚後初めて、
夫婦として夜会に招かれた。
煌びやかなシャンデリア、
絹のドレスが揺れ、
視線が渦巻く大広間。
昼間の日差しほどではないとはいえ、
熱気と喧騒の中に長く立っているだけで、
シルヴィアの皮膚は
じんわりと赤みを帯び始めていた。
――早く帰りたい。
胸の奥で小さな願いがうずく。
誰かの視線を感じるたびに、
気味が悪いと思われているんじゃないかと
不安な気持ちに駆られるのだ。
エルヴィンは時折、
気遣わしげに目を向けてくれるものの、
やはり言葉は少ない。
「無理をしないでいい」と短く告げるだけで、
シルヴィアの手を引いて
大広間から連れ出してくれるわけでもない。
彼が悪いわけではないのに、
シルヴィアはまた勝手に胸を締めつけられた。
夫は嫌っているわけではない。
けれど――好かれているとも思えない。
そんなモヤモヤした気持ちに
囚われていた時だった。
「……失礼。あなたに、ご挨拶をしても?」
背後から、どこか熱を帯びた声がした。
シルヴィアが驚いて振り返ると、
濡れた黒曜石のような瞳を持つ青年が
シルヴィアを見つめて微笑んでいる。
「わたしはバイロン・クレメンス。デザイナーをやっています」
その青年は、シルヴィアを見るなり
恍惚の表情で息を呑んだ。
「……なんて、美しい。
まさに……貴女はまさに私が探していた“ミューズ”だ」
「――え?」
シルヴィアは心底驚き、
戸惑って首を振る。
美しい――そんな言葉、
彼女の生涯でほとんど聞いたことがなかった。



