ついに運命の日。

午前の空気は異様に重く、
王都ラデスフロー全体が
まるで“何か”を待っているようだった。
シルヴィアは震える指で荷物をまとめながら、
心の奥のざわめきが消えないのを感じていた。

その一方で、
屋敷の中は人が消えつつあった。
「若奥様……どうかお元気で」
「どうかお気をつけて」
長年仕えてきた使用人たちが、
一人、また一人と静かに荷をまとめ、
王都を去っていく。

彼らも嫌な胸騒ぎがしていたのだ。
ついに何かが“起こる”と。

そして陽が傾き始めた頃――
王宮へ出立の挨拶をしていたエルヴィンが戻り、
馬を降りるや否や声を張り上げた。

「シルヴィア! クラウス! すぐ出るぞ!」

彼の声は、
いつもより低く、切迫していた。

シルヴィアが慌てて玄関へ駆け寄った
まさにその時だった。

――ドォォォン!!!

王都の中心部、
広場の方角で爆ぜるような轟音が響き、
黒煙が天へ昇った。
そして人々の怒号が
遠くから波のように押し寄せてくる。

「一体何が……?」
シルヴィアは青ざめる。

荷物を積み込んでいた
クラウスは額の汗を拭う。
「エルヴィン様! これはまさか……!」

「市民が王宮へ向けて進軍している!さっき衛兵たちから聞いた。軍との衝突は時間の問題だ!」
エルヴィンの瞳が鋭く細められた。

ついに、その時が来てしまったのだ。