『ドレスに宿る誓い』―Elara & Lanois 王国を変えた仕立て屋たち―

ついに全ての準備がととのった。

エルヴィンは、
シルヴィアの前に静かにひざまずいた。

彼の瞳には、もはや迷いはない。
長い準備期間、彼はすべてを整えた。
父母への最後の声かけも、
屋敷の使用人たちへの餞別も、
ウィステリア王国への亡命許可も――。

そしてついに、
最も大切なことを愛する人に伝える時が来た。
「シルヴィア。」

名を呼ぶ声は静かだが、
戸惑いを許さぬほどに真剣だった。

「……もうすぐ、この国は大きく揺れる。
　王都は危険だ。
　だから――明日の夜、ここを出るよ。」

シルヴィアは息を呑む。
毎晩、
彼が何かをしていることは知っていた。
それはてっきり、
仕事が忙しくて持ち帰っているのだろうと
思っていたのだ。
まさか亡命の準備だったとは。

エルヴィンはそっと彼女の手を包み込み、
言葉を続けた。

「君を、守りたい。
　“侯爵家の妻”としてではない。
　誰かに飾られる人形としてでもない。
　ひとりの女性として。
　俺が……心から愛する、シルヴィアとして。」

ゆっくりと、真っ直ぐに、逃げずに。

「……俺と一緒に、来てくれるね。」

ふいに、
シルヴィアの目から涙がこぼれ落ちた。