そしてエルヴィンは
周囲の者たちへの配慮も欠かさなかった。

エルヴィンは侯爵家に仕える使用人たちを集めた。
「もうしばらくで私は家を離れます。
 その後は……好きに生きてくれていい。
 故郷に帰るも、別の家に仕えるも。
 そのための支度金は、全員分用意した。」

瞬間、部屋がざわめき、
皆が思わず顔を見合わせた。
「皆、この国が不安に揺れていることは知っているだろう。ここに留まりたいなら止めはしないが……私はお勧めしない。」

一人また一人と去っていく中、
老執事クラウスだけは目を細め、
静かに一歩前に進み出る。

「坊っちゃん。
 ……わたくしを、連れていってはいただけませんか?」

「クラウス……?」

「私はもう既に身寄りもなく……ここより他に行くあてもありません。そして何より、幼い頃から見守ってきたあなたのそばに、最後まで仕えていたいのです。」

エルヴィンの胸に熱いものがこみ上げた。
「……ありがとう。心強いよ、クラウス」

亡命の旅に、
信頼できる仲間ができた瞬間だった。