シルヴィアと共に生きる未来へと
着々と準備は進んでいた。

エルヴィンの手に握られているのは
王家からの「海外派遣正式辞令」。
本来なら名誉であるはずの命令に、
エルヴィンの胸は少しも弾まない。

ウルフェニー王家は国の現状を
きちんと理解しているのだろうか?
自分の足元が揺らいでいるこの時に、
呑気に海外派遣させている場合か?

エルヴィンは深いため息をつく。
けれどそのおかげで
亡命するチャンスが巡ってきたのだ。
神の采配に感謝しなければならない。

シルヴィアがこれ以上
この国で苦しまなくてすむと思うだけで、
胸が軽くなった。

翌朝、
エルヴィンは侯爵夫妻に向き合った。
「この度、王家から海外派遣の命を授かりました。王都も最近は治安が悪く、……父上も母上も、一緒に来るべきです。王都に留まるのは危険だ。」

しかし、返ってきたのは期待通り……
いや“予想通り”の反応だった。

「あなた一人で行ってらっしゃいな。
 わたくしは屋敷の管理がありますから」

「金の管理は私の方が得意だ。留守は任せろ」

軽くいなし、
息子の言葉に真剣味など欠片もない。
革命など起こるはずもないと思っているのだろう。

ましてや侯爵夫人は、
(エルヴィンがいなければ、シルヴィアをもっと動かせる……。ふふ、都合がいいわ)
そんな顔すら見せていた。

エルヴィンは静かに立ち上がった。

「……分かりました。どうなっても、自己責任です」
親として見ることをやめた瞬間だった。