「実は俺に海外派遣の話が来ている。
 この混乱の王都を抜けだせる、数少ない安全な道だ。」

言いながらも、彼は視線を落とした。
それはまるで、
自分の選択に
まだ迷いがあるかのようだ。

「だけど……俺は、一人では行かない。
 つまり、君を置いては行かない。
 君に無理をさせてきたことも、守れなかったことも……忘れていない。」

エルヴィンはシルヴィアの白い頬にそっと触れた。
「だから……どうか、一緒に来てくれないか。
 君を“ひとりの女性として”、
 “俺の大切な妻として”守りたいんだ。」

その言葉は、
静かながら揺るぎない決意に満ちていた。

シルヴィアの胸に、
熱いものが一気に込み上げる。

「エルヴィン様……わたし……」

震える唇で名前を呼ぶと、
彼は初めて真正面から彼女の瞳を見つめた。
「シルヴィア、
 俺は……君を、愛している。」

その瞬間、
世界が止まったようだった。

シルヴィアの目から、
ぽろりと涙が溢れた。

「……嘘じゃない……?
 ずっと、嫌われてるって……わたし……」

「馬鹿を言うな。」

エルヴィンはその涙を親指で拭い、
彼女をそっと抱き寄せた。