長い執務を終え、
深夜に館へ帰ったエルヴィンは、
静かにシルヴィアの部屋の扉を開いた。

ベッドの上で眠る彼女の額には
まだ薄く紅潮が残っている。
手首は細く、少し触れただけで折れそうだ。

「……こんな危険な国に、これ以上いさせたくない。」

バイロンの狂気、侯爵夫人の欲、
そして迫る革命。
どれも彼女の心と身体を蝕むものばかりだった。

エルヴィンの胸で決意が固まっていく。

――シルヴィアを、連れて出る。この国から、すべてから。
革命の炎が燃え上がる前に。

その夜、
エルヴィンはシルヴィアの枕元に手を置き、
誰にも聞こえないような声で囁いた。

「今度こそ守る。
 どんな手を使っても、君だけは……。」

シルヴィアは眠ったまま、
弱々しく指を握り返した。

エルヴィンはその温度を確かめるように
ゆっくりと手を包み込み、
夜が白むまでそこに座り続けた。