一方、
エルヴィンは仕事で王宮に呼び出されていた。
王妃シャンタルまでもがバイロンの衣装を好み、
次から次へと奇抜なドレスを作っては
国庫を浪費していく。

貴族夫人は王妃に負けじと
流行を追うのに必死だった。
王宮だけは空疎な華やかさが残っている。
外では民衆が飢えているというのに。

そんな冷酷な現実を見ているうちに、
エルヴィンはウルフェニー王家への幻滅が
頂点に達していた。

そして、そんな中で舞い込んだ――
海外派遣の打診。

「国外の安全な地域での任務……
 この機会に、シルヴィアを混乱から遠ざけることができる」

そう考えた瞬間、
漠然とした希望が確かな確信へと変わる。
このままこの国いても、
いつか貴族たちは立場を失うだろう。
革命の波は
もはや止めようがないところまで来ている。

それにまたいつシルヴィアが
バイロンの毒牙に狙われるか分からない。
ここにいては危険だ。

彼にとって重要なのはもはや、
国の名誉でも、家の義務でもない。

ただひとつ――
“シルヴィアを守れる場所へ連れ出すこと”
それだけだった。