そんな緊迫した空気の中で――
バイロンだけは異様なほどに輝いていた。

「革命の炎は、芸術を燃やし、魂を試す試金石だよ……
 私は時代を超える傑作を作らねばならない!」

陶酔したような瞳。
不穏な空気に支配された街を歩きながら、
うわ言のようにブツブツと呟いている。

前回、
エルヴィンに怒鳴りつけられたはずなのに、
バイロンは全く懲りていなかった。

叱責どころか――
エルヴィンは
「次にシルヴィアに近づいたら、高等法院に訴える」
と脅しつけている。

しかしそんな脅しなど
名声の狂気に取り憑かれたバイロンには
どこ吹く風。

バイロンは侯爵夫人と密かに繋がり、
エルヴィンの留守を狙って
再びシルヴィアを引き戻すつもりでいた。

侯爵夫人が協力する理由はただひとつ。
「シルヴィアが稼ぐ金が欲しい」
それだけだった。

シルヴィアの成功とともに
侯爵夫人も社交界の注目を浴びた。
今まで行きたくても行けなかった場所に
ぜひ来てほしいと招待される喜び。

美しいドレスに眩いばかりの宝石は、
典型的な貴族の女である侯爵夫人にとっては
麻薬のように恐ろしい刺激だった。
買っても買っても新しいものが欲しくなる。
そのためにはお金が必要だった。