エルヴィンはついに
黙っていられなくなった。

帰宅した彼の目に映ったのは、
疲労で顔色を失い、
腕に細かな炎症を起こしたシルヴィア。
化粧の下には隠しきれない赤みが浮かび、
心なしか呼吸も浅い。

その瞬間、
エルヴィンの中で何かが切れた。

「母上、これ以上シルヴィアを働かせるのはやめてください」

普段は落ち着いた青年の声が、
怒気に震える。
侯爵夫人は息を呑み、
肩をすくめた。

「な、何もそんなに怒鳴らなくても……あなたも見たでしょう。美しく飾り立ててもらって、シルヴィアも喜んでいるにちがいないわ。」

「彼女は身体が弱いんです。そして彼女は喜んでなんかいない。嫌がることを無理強いしないでください。
それに彼女を働かせなければならないほど、我が家はそこまで困窮していないはずだ。私がきちんと働いている。
あなたの贅沢のために、彼女を搾取するのはもうやめてください!」

エルヴィンの強い叱責に、
侯爵夫人は珍しくしおらしく謝った。

……その場では。

だが、エルヴィンが仕事で屋敷を離れた途端――
彼女は態度を一変させた。

「さ、シルヴィア。次の仕事よ。
 あなたが休んだら、どれだけの人に迷惑がかかると思ってるの?」

にこやかな笑顔の裏に潜む冷たい脅し。
シルヴィアは声を失い、
ただうなずくしかなかった。