バイロンの名声が高まれば高まるほど、
彼自身の肩にも重圧がのしかかっていった。

「もっと話題性を……もっと刺激を……!」
世間が求めるのは常に“次の衝撃”であり、
バイロンはそれに応えるために、
どんどんデザインを尖らせていった。

そして当然、
その負担はすべてシルヴィアに降りかかる。

「シルヴィア、次のドレスは──背中を大胆に開けようと思うんだ。君なら着こなせる」

「少し派手すぎる気がします……」
夫にすら見せたことのない部分の肌を
肖像画とはいえ
世間一般に晒すなんて……

「大丈夫だよ! 君は僕の最高傑作なんだ!」

熱に浮かされたような声。
引き返す道は、
もうバイロンには見えていなかった。

そして侯爵夫人もその勢いに乗った。
「これで侯爵家は安泰よ。あなたは“稼げる娘”なんだから、しっかり働いてもらわないとね」
侯爵夫人自身は、
シルヴィアが得たモデル料で
最新の宝飾品を買い漁っていたのだ。
一度覚えた贅沢は
なんとしてでも手放したくないもの。
侯爵夫人には
シルヴィアの気持ちや体調など
どうでも良かったのだ。

バイロンの要求が
シルヴィアの許容範囲を超えて
過激になり始めた頃、
夫であるエルヴィンは
国の仕事で外国に行っており、
長期で家を空けていた。

もし彼が家にいてくれたなら、
バイロンと侯爵夫人を諌め、
シルヴィアを守ってくれていただろう。
しかしそんな彼は遠い異国の地。
シルヴィアの現状を知る由もなく、
シルヴィアの逃げ場は、
どこにもなかった。