『ドレスに宿る誓い』―Elara & Lanois 王国を変えた仕立て屋たち―

ある晩、珍しく予定が早く終わり、
シルヴィアはそっと家に戻った。

廊下に灯るランプの明かり。
暖炉の火は落ちかけていて、
そこにエルヴィンがひとり、
書類を広げて座っていた。

「……おかえり」
顔を上げた彼の声は、
なぜだか少しだけ安堵に震えていた。

自分の帰りを待ってくれていたことに
少し胸が温かくなる。
けれどシルヴィアは、
彼の声の微かな震えの意味を理解できない。

「ごめんなさい。今日は……遅くなってしまって」

「また仕事か? ……君がいいなら、かまわないが」

彼はそれだけを言って、
視線を戻した。

本当は、
「体調は大丈夫か?」
「無理をしていないか?」
そう聞きたかった。

けれど彼は不器用で、
いつも肝心なところを飲み込んでしまう。

一方、
シルヴィアはその沈黙を
“私が何をしていても、私に興味がないからだ”
と受け取ってしまう。

不器用な二人は
見事にすれ違ってしまっていた。