エドワード国王から勲章を授かったあの日から、
さらに年月が流れた。
Elara & Lanois は
世界中の女性たちから
愛され、支持されるブランドとして
変わらず成長していた。

本社最上階、来賓を迎える応接室。
壁一面に掲げられた二つの肖像画が、
訪れる誰の目もまず引きつける。

Sir エルヴィン・ラノイ
優しい眼差しで微笑む彼の肖像は、
シルヴィアが画家として
初めて描いた作品だった。
筆跡の一つひとつに、
尊敬と、愛が滲む。

Dame エラ・ラングレー
凛とした姿勢、
そしてビシッと決まったスーツ姿が美しい。
エラの情熱と気高さを
そのまま絵に閉じ込めたのもシルヴィアだ。
来訪者はいつも口々に言う。
「まるで今にも話しかけてきそうだ」と。

応接室の空気には、
「Elara & Lanois の魂はここにある」
そんな静かな誇りが満ちていた。

そして本社の正面玄関へと続くホールには。
ガラスケースに静かに展示された
一台の古いミシンがある。

エルヴィンの祖母が、
「いつか好きなことをできますように」
そう言って託してくれた宝物のミシン。

世界的ブランドになった今も、
エルヴィンは折に触れて
あの言葉を思い返したという。

いまそのミシンはブランドの象徴として、
訪れた若いデザイナーたちに
静かに語りかけている。
――“最初の一針を忘れないように” と。