エルヴィンが仕事から帰宅すると、
屋敷の玄関は
華やかな香水と布見本の匂いで満ちていた。
「サロンの打ち合わせに行って来るわね、エルヴィン。モデル料の交渉もあるのよ」
侯爵夫人は上機嫌でシルヴィアの腕を引く。
エルヴィンが声をかける間もなく、
ふたりは馬車に乗って出て行った。
残されたエルヴィンは、
ただ静かな廊下に立ち尽くす。
おもむろに布見本を手に取り、
パラパラとめくる。
あれよあれよと言う間に
シルヴィアは王都一のモデルへと
駆け上がってしまった。
母の手前、
なかなか本音を言えないのかもしれない。
シルヴィアは望んでやっているのだろうか。
シルヴィアと話をしようと
彼女が好きそうな茶葉も買っておいたのに。
彼女が家にいなければ
それはまるで意味をなさなかった。
エルヴィンの心配をよそに、
シルヴィアは気づけば、
ほとんど家にいない日々を送っていた。
デッサン、ドレスの仮縫い、夜会、パーティー。
侯爵夫人は「稼げるうちに稼ぐのよ」と
嬉々として予定を入れる。
シルヴィアは疲れ切っていても、
押しの強い義母に負けて断れない。
「……でも、これで家の役に立てているのなら」
そう思えば、
多少の無理も飲み込めた。
エルヴィンが疲れた顔で帰宅する時間に、
家にいられないことが増えたが――
エルヴィンに嫌われていると
思い込んているシルヴィア。
彼が自分と話したいと思っているとは、
考えもしなかった。
屋敷の玄関は
華やかな香水と布見本の匂いで満ちていた。
「サロンの打ち合わせに行って来るわね、エルヴィン。モデル料の交渉もあるのよ」
侯爵夫人は上機嫌でシルヴィアの腕を引く。
エルヴィンが声をかける間もなく、
ふたりは馬車に乗って出て行った。
残されたエルヴィンは、
ただ静かな廊下に立ち尽くす。
おもむろに布見本を手に取り、
パラパラとめくる。
あれよあれよと言う間に
シルヴィアは王都一のモデルへと
駆け上がってしまった。
母の手前、
なかなか本音を言えないのかもしれない。
シルヴィアは望んでやっているのだろうか。
シルヴィアと話をしようと
彼女が好きそうな茶葉も買っておいたのに。
彼女が家にいなければ
それはまるで意味をなさなかった。
エルヴィンの心配をよそに、
シルヴィアは気づけば、
ほとんど家にいない日々を送っていた。
デッサン、ドレスの仮縫い、夜会、パーティー。
侯爵夫人は「稼げるうちに稼ぐのよ」と
嬉々として予定を入れる。
シルヴィアは疲れ切っていても、
押しの強い義母に負けて断れない。
「……でも、これで家の役に立てているのなら」
そう思えば、
多少の無理も飲み込めた。
エルヴィンが疲れた顔で帰宅する時間に、
家にいられないことが増えたが――
エルヴィンに嫌われていると
思い込んているシルヴィア。
彼が自分と話したいと思っているとは、
考えもしなかった。



