ある晴れた午後。
本社のドアが静かに開き、
ひとりの女性が姿を見せた。

淡いラベンダーのスーツに、
髪をスッキリと後ろで束ね、
メガネをかけた知的な女性。
だがどこか、
恋に落ちた者だけが持つ
柔らかい輝きを纏っている。

彼女は受付で名前を告げる。
「……ミ、ミレーヌ・オーダンです」

受付に静かなどよめきが起こる。
そう、彼女こそ──
あのハイドランジア帝国の
フィリップ皇太子の心を射止めた
“あの”敏腕ジャーナリストだった。

ミレーヌは少し緊張したように微笑んだ。
「事前のアポイント通り、スーツのオーダーに来ました。
……ずっと、このブランドに憧れていたんです。」

特別応接室で、
エラとシルヴィアが彼女を迎える。
「ようこそ、ミレーヌさん。
今日はどんなスーツを望まれていますか？」

ミレーヌは胸元を押さえ、
言葉を選ぶように語った。
「ご存知の通り……ハイドランジア帝国に正式に移り住むにあたり、“私らしさ”を失わず、それでいて格式に合うスーツがほしくて……」

シルヴィアが優しくうなずく。
「あなたの書いた記事を拝見しました。あなたの持つ、その強さとしなやかさを形にしましょう。」

エラはスラスラとデザインを描き込みながら、
ミレーヌに話しかける。
「ハイドランジアは格式が高い国だけど、あなたの個性を隠す必要はない。
むしろ、あなたが着ることで“新しい風”を吹かせられるはずです。」

ミレーヌの瞳が潤む。
「……こんなふうに言ってもらえるなんて……感激です。
ずっと、このブランドが私の背中を押してくれていました。憧れのエラさんに会えただけで胸がいっぱいだわ」