アリス王妃がこのスーツを
お披露目する場に選んだのは、
毎年行われる《女性功労者を讃える式典》。

会場となる大ホールは、
国家の威信を示す荘厳な建築。
その中央に、
これまで社会を支えてきた女性たちが
誇らしげに並んでいる。

ウィリアム国王は、
いつも隣にいるはずのアリス王妃が
まだ姿を見せていないことに、
少しだけ首をかしげていた。


そして…会場に静かなざわめきが走る。

高い天井から差し込む光が扉を照らすと、
ゆっくりとその扉が内側から開く。

現れたのは、
鮮やかな深紅の“革命スーツ”を纏ったアリス王妃。

女性がドレス以外で
公の場に立つことなど考えられない時代。
会場中が息を飲んだまま、
動けなくなる。
「きゃあぁぁっ……！」
「まさかあれはズボン！？ 王妃が！？」
「信じられない……でもなんて堂々として美しい……！」

ウィリアム国王は目を見開き、
アリスを真っ直ぐ見つめる。
「エリー……その格好は？」


一瞬の静寂。

アリス王妃は微笑む――
自信と誇りに満ちた、
未来を見据えた女王の笑み。
「どう？　似合わない？」

一歩、二歩とゆっくり進むたびに、
革靴の音が響き、
会場がさらにざわめく。

ウィリアム国王は思わず息をのむ。
「……いや」
「すごく素敵だよ。まさに新しい時代の女性だ」

国王の言葉に、会場の空気が大きく揺れる。
そして、静かな拍手が波紋のように広がり、
ついには会場全体を席巻する喝采へ変わった。