次に二人は小さな借家を工房に仕立てた。
中央には作業台が据えられ、
エルヴィンの宝物の古いミシンが設置される。

そしてドアには小さな金属プレートが打ち付けられる。
夕陽がプレートに反射して
“Elara & Lanois”の文字を金色に染める。

「ここが私たちの第一歩ね。悪くないんじゃない?」
エラはにんまりと笑う。

エラは早速、市場で繊維商と交渉した。
肌触りの良い薄手コットンや上質の薄地ウール、
滑らかな絹に近い麻混の生地など、
素材を厳選していく。

色は“肌に優しい”ニュートーンを基調に。
装飾は最小限で、
ドレープと裁ち方で美を引き出す方向に
舵を切った。

工房で初めて自分たちの布で試作した
“モック(仮縫い)”を、
シルヴィアが着て鏡の前でゆっくり回る。

順調な滑り出しに
小さな工房から笑みが広がった。

エルヴィンは祖母ゆずりのミシンに向かい、
夜通しで縫い目を詰め、
補正を重ねる。

エラは型紙を切り、
布をドレープしてシルエットを探る。
二人で試行錯誤し、時には喧嘩し、
すぐ仲直り。
そんな毎日を積み重ねた。

「ここで布目を逆にしてみて」
「その余白をこう開いて」
──手と声が、
設計図を越えて服に魂を宿していく。