またたく間に時は過ぎ、
服飾学院の最終学期。
アトリエ棟は、
卒業制作に燃える学生たちの熱気で満ちていた。

エルヴィンは、
白い布地の前で静かに息を吸い込む。
指先には、
かつてシルヴィアに縫い上げた
“あのドレス”の感触が残っている。

――女性の身体を飾り立てるための服じゃない。
女性自身が呼吸できる、“生きた服”を作りたい。

それが彼のテーマ「女性の解放」。

素材研究、パターン作り、
無駄を削ぎ落すデザイン。
何度も失敗し、生地を無駄にし、
それでもひたすら前に進む。

時にはエラが隣の作業台から顔を上げて言う。

「エルヴィン、あんたの縫い目、今日はいつもより優しいわね。
誰のことを考えながら縫ってたの?」

「……見抜かれたか。もちろん、シルヴィアのことだよ。」

「ふふ、やっぱり。」

エラもまた、
自分の“女性を勇気づけるデザイン”に
全身全霊を注いでいた。

二人は夜遅くまで残り、
無言で作業することもあったが、
不思議と心地良かった。