『ドレスに宿る誓い』―Elara & Lanois 王国を変えた仕立て屋たち―

「シルヴィア、次は週末よ。報酬も悪くないわ、ほら、これを見て」

ラノイ侯爵夫人は契約書の数字を指で叩きながら、
上機嫌に言う。
最初の肖像画が
王都の話題をかっさらって以降、
侯爵夫人は上機嫌だった。

シルヴィアを金のなる木と見定め、
マネージャーとして
仕事の一切を取り仕切っていた。

シルヴィアは微笑みを浮かべて頷く。
本心は、
緊張で胸がぎゅっと痛むような思いだったが――
侯爵家の明るいとは言えない家計を思えば、
断る理由などどこにもない。

むしろ、
わずかでもエルヴィンの負担を
減らせていると考えると、
それだけで心がほっと温かくなる。
こんな自分でも、
家の役に立てている。
そんな充足感を感じてもいた。

バイロンのアトリエで着せられる
華やかなドレスは、
自分のために用意されたとは思えないほど
キラキラと輝いて眩しかった。

シルヴィアだって
おしゃれに興味がないわけではない。
華やかなドレスを見れば、
自然と心がときめく。
そんな普通の女の子だ。

きれいに着飾った鏡の中のシルヴィアは
――悪くなかった。

(…こんなふうに見えるんだ、私)

ほんの少しだけ、胸が高鳴る。
ドレスの裾がふわりと広がり、
淡い色彩が自分の肌を柔らかく包む
この感覚は嫌いではない。
思わず鏡を覗き込んで
見惚れてしまう。