思わず――いや、正確にはためらいもなく。
私は抱えていた段ボールを、そのまま彼めがけてぶん投げた。
「うおっ……!」
予想外だったらしく、彼は驚いた顔のまま尻もちをついた。段ボールの中身が床で鈍い音を立てる。けれど気にしない。
この前は勝手にキスされ、今日は勝手に彼女扱い。 それに“気持ち悪い”なんて暴言まで。
――もう、黙っていられるはずがない。
ヒールの音をゆっくり鳴らしながら、一歩近づく。
逃がす気なんて、ない。
――私を誰だと思ってるの。
“天使”と呼ばれるこの私を。この男の無神経さを、許すつもりはない。
「あたしのこと、誰だと思ってんの?」
睨みながら見下ろす。胸の奥では、怒りが熱を帯びて膨らんでいく。
――私を誰だと思ってる?“天使”と呼ばれてきたこの私を。冗談じゃない。
彼は「…あ」と、何かを思い出したように小さく声を漏らし、そのまま立ち上がった。
立った瞬間、影が落ちる。近くで見ると、予想以上に背が高い。180は余裕で超えている。見上げる形になるけれど、負けた気はしない。
「お前、この前男で遊んでたやつ?」
……は?
一瞬、本当に聞き間違えたかと思った。気づいてなかったの?あれだけ勝手しておいて?いや、そうじゃなくて、“男で遊んでたやつ”って。言い方があまりにも雑すぎる。
しかも、あろうことか、私の顔の前で指を指してくる。指すな。
――人を指すなんて最低。私を指すなんて、もっと最低。
「……その言い方、やめてくれる?」
彼は眉ひとつ動かさず、首を傾ける。「事実じゃね?」とでも言いたげな顔。


