ロマンスに、キス




「……ちっ、だりーな」


「行こーぜ」



猿2匹は、あたしとヘッドフォン男を交互に睨みつけながら、悪態だけを残して去っていく。


いや、睨まれる筋合い、こっちにないんだけど。


むしろ、あんたたちの方が一方的に絡んできた側だし。
理不尽すぎて、言葉が追いつかない。


それにしても。


さっきの男――
文句のひとつでも言ってやろうと、口を開きかけたとき、彼はもう背を向けていた。



「ああ、悪い」



それだけ。


軽い。
謝罪とも言い切れない、形だけの一言を残して、ヘッドフォンをまた耳に戻す。


歩幅は大きくて、振り返る気配なんて、微塵もない。


あたしは、しばらくその背中を眺めていた。


怒るべきなのか。
呆れるべきなのか。
それとも、何か言い返すべきだったのか。


感情が、すぐに形を持たない。
どれもしっくりこなくて、宙ぶらりんのまま胸の奥に溜まっていく。


ただ、ひとつだけはっきりしている。


あれは、助けでもない。
優しさでもない。


都合よく使われただけ。
それ以上でも、それ以下でもない。



……最悪だと思う。



心の中で、そう断じる。
なのに。



ほんの一瞬だけ残った感触が、どうにも忘れにくいのが、やけに癪だった。