ロマンスに、キス




ちょっと、待って。どういうこと?


頭の中で、言葉だけがぐるぐる回る。意味を結ぶ前にほどけて、掴めない。


あまりにも初めてすぎて、思考が、まるで追いつかなかった。


理解するより先に、感覚だけが暴走する。



……まつ毛、長いな。


そんなこと、考える場面じゃない。
分かってる。分かってるのに。



目を閉じることもできないままのキスで、どうでもいい情報ばかりが、脳裏に浮かんでは消えていく。



距離の、近さ。息の、温度。
触れているのは唇だけなのに、体全部を囲われているみたいで、逃げ場がない。


動けない。動き方が、分からない。


ただ、猿二匹をからかっただけだった。いつもの、よくある暇つぶし。

かわいい顔で、適当に相手して、――。


それが、どうして。

どうして、こんな展開になる?

完全なるイレギュラー。想定外。ありえない。


現実感がなくて、自分が自分じゃないみたいだった。



「な?お前ら、黙れよ」



低くて、感情の読めない声。

その言葉と同時に、唇が、ふっと解放される。


離れた。

そう思った瞬間には、男はもう、猿たちの方へ視線を戻していた。


振り返らない。確認もしない。


冷たく、鋭く、睨む。
その視線だけで、空気が変わる。


その圧に、猿二匹は情けないほど固まっていた。
さっきまでの勢いが嘘みたいに、声ひとつ、出せない。



……ほんとに、意味がわからない。


なんで、あたしが。
なんで、こんなことを“された”側みたいになってるの。


望んでない。頼んでない。


守られたわけでも、助けられたわけでもない。
ただ、使われた。


そう感じたのは、全部が終わったあとだった。


遅れて、じわじわと、胸の奥に広がる。
利用された、っていう感覚だけが。