「今、彼女いないんだよね…?」
女の子の震える声が、冬の空気を震わせるように届いた。胸の奥で、ほんの少し同情が芽生える。
――かわいそうに。
そう思った、その瞬間。
足音。
ゆっくり、でも迷いのない歩幅で近づいてくる気配。
まさか、と息を呑む。
段ボールの隙間から覗いた視界に映ったのは、黒いヘッドフォン。先日の、あの男。
一瞬、呼吸の仕方を忘れた。
「こいつ、俺の彼女」
段ボール越しに響いたその言葉は、意味だけが鋭く突き刺さる。
「え?」
自然と声が漏れる。けれど彼はやっぱり私を見ない。女の子に向けて、事務的に、刺すように言い放っただけ。
掴みかかって問いただしたい。どういうつもりなのか、顔を見て言わせたい。けれど今の私は段ボールで腕が塞がれている。動けない。その不自由さが、妙に腹立たしい。
「え、柏谷さんと付き合ってるの?」
泣きそうな声が響いた瞬間、胸の奥が少し重くなる。私の名前が出た途端、巻き込まれた感覚しかない。
――なんで私が。
「あ? うん、そう」
即答。何の迷いも温度もない返事。
……こいつ、本当に。


