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ある日の放課後。
先生に「ちょっとこれ、職員室まで運んでくれる?」なんて言われてしまった。断れない。
――“天使”と呼ばれている以上、文句を言うのは似合わない。だから私はただ、段ボールを抱えて校内を歩いていた。
もちろん当番じゃない。心の中では「なんで私が?」と小さく毒づく。けれど顔には出さない。笑顔を浮かべていれば、みんなは勝手に「かわいい」と言ってくれる。かわいいは正義。
外廊下に差しかかったあたり。
段ボールで前が少し見えにくく、足元だけを確認しながら歩いていた。
そのとき――。
「好きです。付き合ってください」
耳に飛び込んできた声に、思わず足が止まった。
視界の端に、中庭の人影。女の子が、真剣な顔で告白している。
タイミングが悪すぎる。ここを横切るなんて、空気が読めなさすぎる。
どうしよう、と心の中で焦った瞬間。
「ごめん。付き合えない」
低く、淡々とした声。驚くほど迷いがない。即答にもほどがある。
……もう少し優しく言えないのかな。
そう思いながら、私は段ボールを抱えたまま耳だけをそちらに向ける。


