ロマンスに、キス




ひやりとした感触。
顎に触れた指先に、反射的に肩が跳ねた。


ぐいっと、軽く持ち上げられて、視界が強制的に上を向く。


近い。
近すぎる。


逃げなきゃ、と思ったのに、体が言うことをきかない。
かわいい顔を作る余裕も、考える余裕も、もうない。




次の瞬間には、


そのまま、唇を奪われた。




……なに。


頭が、理解を拒否する。
触れた感触だけが先に来て、それが何なのかを考える前に、塞がれる。



キス。


遅れて、そう気づく。


でも、それは知識の中の出来事で、あたしの現実じゃなかったはずのもの。


考える暇なんて、なかった。


息の仕方が分からない。
口を開けるのか、閉じるのか、何が正解なのか、全部分からない。



息ごと持っていかれるみたいで、頭の中が一気に白く塗りつぶされる。


声を出そうとしても、音にならない。
抵抗しようと力を入れたはずなのに、その力がどこにも向かわないまま、途中で消えた。



怖い。

知らない。

分からない。



初めての感触と、初めての距離に、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。


視界の端で、さっきまで騒いでいた猿たちが、信じられないものを見るみたいに固まっているのが、遠く、にじんで見えた。