ロマンスに、キス





「はぁ? お前、なに?」

「そっちこそ、誰だよ」



猿たちが声を荒げる。

……いや、あたしからしたら“あんたたち全員誰?”なんだけど。
ちょっと、勝手に話を進めないでよ。


しかも真横から割って入ってきたヘッドフォン男──あたしを一度も見ずに、猿だけを睨んでいる。

この、“あたし”を完全に無視して。



「お前、なんなの? この子の彼氏なの?」



猿のひとりが吐き捨てるように言うと、ヘッドフォン男は気怠そうに片眉を上げた。



「あー。そう言えば、静かにしてくれるわけ?」



……はい?
そう言えばって何?

あたしを置いて話すな、無視すんな、とイライラが喉元まで上がった瞬間。

男が、クルッと振り向いた。


一拍もなく、指先があたしの顎に触れる。

ぐいっと軽く持ち上げられ──


そのまま、唇を奪われた。


息ごと持っていかれるみたいで、何も言えなくなる。
目の前で猿たちが固まっているのが、ぼやけて見えた。