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「お姉さん、ひとり?」
振り向いた瞬間、息をのむような声が落ちてくる。
「うわ、かわい〜。ラッキー」
軽く顎を引く。ほんの5〜10°。
目線は、相手の眉のあたりをかすめるようにそっと合わせる。
「友達、待ってて…」
口角を、2mmだけ上げる。
歯は見せない。柔らかく“にこっ”と微笑む。
そのたびに、3〜5秒おきの自然なまばたきが、空気をやわらかく揺らす。
「え〜。一緒に遊ぼうよ」
肩にかかる声が少し甘くて、思わず視線をそらす。
「でも〜…」
迷ったふりをしながら、またゆっくりと目を開ける。
その一瞬の間も、彼らの視線はずっと、こっちに吸い寄せられたままだった。
本当、猿みたい。
……なんて思っても、もちろん口には出さない。
「お兄さんたちは、今からどこ行くんですか?」
興味なんて1ミリもないくせに、首をちょこんと傾けて聞いてみる。
すると案の定、目の前の“猿”たちは頬を赤らめ、妙に照れたように視線を泳がせる。
「え、えっと俺らは……」
1匹が口を開いた、その瞬間。
「さっきから、うるせぇんだけど」
低い声が、すぐ真横から落ちてきた。
黒い大きなヘッドフォンを片耳だけ外しながら、男が割って入ってくる。


