「一千華ちゃん、経験ないのにな?」
最後のトドメ、みたいに落とされたその一言に、本当は、顔が熱くなるのがわかるくらい、動揺してた。
言い返してやりたいけど、でも、それをしたら負けだ。
むしろ、これはチャンス。
「あたし、彼氏いたことないって言ったけど」
一瞬だけ間を置いて、佐野を見る。
「経験がないなんて、ひとつも言ってないけど?」
佐野の表情が、わずかに止まったのがわかった。
「ファーストキスって言ってたこと、忘れた?」
「それは、キスの話でしょ?」
ふふん、と、勝ち誇ったような顔を作って、いつもの定位置に腰を下ろす。
これ以上は、もう何も言ってこないでしょ。
そう思って、気持ちを切り替える。
さ、ごはん食べよ。
お弁当袋のチャックを開けようと、右手を伸ばした、そのとき。
――ぐっ。
突然、右手首を強く掴まれた。



