ロマンスに、キス




あたしは静かに立ち上がった。
天使スマイルなんていらない。むしろ、いつもより無表情。

歩いて佐野の前に立つと、周囲の視線が突き刺さるように集まった。
「ちょっと来て」――小声でそう言って、佐野の腕をがしっと掴む。驚くほど硬い腕。けれど抵抗はしなかった。



そのまま強引に廊下へ連れ出す。教室のどよめきを背中に置いて。歩幅を合わせる気なんてない。あたしが引っ張る形で、人気のない空き教室まで連行した。

ピシャッと、扉を閉めた瞬間、ようやく静かになる。 腕を離し、深く息を吐いた。



「…何の用? 困るんだけど」



腕を組んで睨む。視線は冷たく、声は低く。
昨日からずっと、勝手に名前を使われて、勝手に噂を広められて。もううんざり。

なのに、佐野は、なぜか持っていたビニール袋をガサガサと漁り出した。

ほんとに、なに。



「これ、やるよ」

「は?」



差し出されたのは――チョコのお菓子。



「あと、これも。これも、これもある」



一つ一つ渡すのが面倒になったのか、袋を逆さにして机の上にドサッとまとめて出した。