ロマンスに、キス


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昼休み。
ガラッと、勢いよく教室の扉が開いた。その瞬間、ざわっ、と空気が動く。クラスメイトの視線が一斉に扉へ流れる。

その流れに釣られて、私も顔だけ向けた。黒いヘッドフォン。無駄に整った横顔。背の高さで人混みの上からでもすぐにわかる。


……佐野。なんで、この教室に来るの。

その瞬間、教室が一段階ざわめいた。



「え、来たんだけど……」

「本物だ」

「柏谷さんのとこ、行くんじゃね?」



最悪。



「――一千華」



静かな教室には不釣り合いなほど大きい声。教室中に響き渡る。一瞬、空気が止まった。


……な、んで名前知ってるの。というか、呼ぶにしても声が大きすぎる。注目を集める気満々じゃないか。


教室のあちこちから、ざわざわと囁きが漏れる。



「え、下の名前で呼んだ……」

「付き合ってる説、もう本当じゃん」

「柏谷さん、呼ばれてるよ……」



ほんと、やめてほしい。これ以上、無駄に燃料をくべられてたまるか。
昨日の噂だけでもうんざりなのに、今日もわざわざ教室まで来て名前を呼ぶなんて。しかも下の名前。大声で。わざとらしいにもほどがある。