ロマンスに、キス




思わず――

いや、正確には、ためらいもなく。


あたしは抱えていた段ボールを、そのまま彼めがけてぶん投げた。


考えるより先に、体が動いていた。
理性が追いつく前に、怒りだけが一直線に腕を突き動かす。



「うおっ……!」



完全に予想外だったらしい。
彼は間の抜けた声を上げ、そのままバランスを崩して尻もちをついた。


段ボールが床に落ち、中身がばらばらと転がって、鈍い音を立てる。


でも、そんなことはどうでもよかった。


この前は、勝手にキスされて。今日は、勝手に彼女扱いされて。挙げ句の果てに、“気持ち悪い”なんて暴言まで。



――もう、黙っていられるはずがない。



靴の音を、わざとゆっくり鳴らしながら、一歩近づく。


コツ、コツ、と。
逃げ場を削るみたいに。


逃がす気なんて、最初からなかった。



――あたしを、誰だと思ってるの。



“天使”と呼ばれてきた、このあたしを。
笑っていれば許されると思ってるなら、大間違い。


この男の無神経さを、このまま見過ごすつもりなんて、欠片もない。