ロマンスに、キス




「お前、女の子泣かせんじゃねーよ」



佐野の声は、いつも通りぶっきらぼうで。
なのに、その一言で、胸の奥がぐしゃっと潰れた。


……誰が言ってんだ。

“女の子”なんて。今まで、そんな言い方したこと、ないくせに。


佐野は、あたしの手首を掴んでいた手を、あっさりと引き剥がす。
ためらいもなく、流れるみたいな動きで、そのまま、ぐいっと捻り上げた。



「いでででで!!」



情けない悲鳴が、屋上に響く。

でも。

もっと、やってほしい。

足りない。

その腕が、二度とあたしに触れないくらい。
逃げられないくらい。

佐野の背中越しに見る景色が、今まででいちばん、安心できた。



「こんくらいで、いい?」



佐野が、あたしの顔を覗き込むように聞く。
首を横に振った。


天使の柏谷一千華だったら、絶対に考えられない、あるまじき行為。


でも、許してやらない。



「……もう二度と、あたしの前に現れないで」



悲鳴を上げながら、震える声を抑えながら、あたしはポロポロと涙を零しながら言った。



「お前のこと、言いふらしてやるからな!」



男は、真っ赤な顔をして、捨て台詞を吐いて、屋上を出ていった。