気持ち悪い顔が、さらに近づいてくる。
吐き気がして、視界が滲んで。
――もう、どうでもいいや。
そう思った、その瞬間だった。
ふと。
ほんとうに、唐突に。
思い出した。
初めての、キス。
名前も知らないまま。何もわからないまま。佐野との、最悪な初対面。
出会い方も、最悪で。知り合ってからも、最悪ばかりで。
水をぶっかけて。言い合って。傷つけ合って。
それでも。
それでも、こいつとは、比べものにならない。
あたしにとって、佐野とのキスは、特別だった。
最初から、特別だったわけじゃない。むしろ、最低だった。
夢見てた、運命的なファーストキス。ロマンチックで、甘くて、大切にされるやつ。
そんな欠片、どこにもなかった。
最低最悪の、ファーストキス。
なのに。
それでも、あたしにとっては、価値のある出会いだった。
時間が経つごとに。思い出すたびに。だんだんと、特別になっていった。
……佐野。
佐野。
あんた以外に。
あたしの本性、知ってる人いないんだから。
かわいいを剥がした中身も。性格の悪さも。弱さも。汚いところも。
全部、知ってるのは、あんただけなんだから。
だから。
そんな簡単に、あたしの元から、いなくならないでよ。
勝手に現れて。勝手に特別になって。勝手に消えるなんて、許さない。
そばにいてよ。



