ロマンスに、キス




「……あたし、そんなことしてないし。ひどいよ」



声は、震えていた。
それでも、否定しなきゃと思って、必死に言葉を絞り出す。



「ひどいのはどっちだよ!散々、弄びやがって!」



意味が、わからない。
言葉が、頭の上を素通りしていく。



「……っ」



次の瞬間、手首を強く掴まれた。
考えるより先に、体がびくっと跳ねる。


痛い。
怖い。

いきなりのことで、声が出なかった。


弄んだつもりなんて、ない。
最初から、そんなつもり、なかった。

勝手に勘違いしたのは、そっちで。たかが、プリントを拾ってあげただけで。

それだけで、どうして、こんなことになるの。



「いつも、ぶりっ子しやがって!」



怒鳴り声が、耳の奥に突き刺さる。
腕は痛いし、距離が近すぎて、息が詰まる。
飛んできた唾が、頬に当たる感触が気持ち悪い。



「お前なんか、死ぬまで一人だよ!!」



――ああ。


その言葉を聞いた瞬間、
なぜか、すとんと腑に落ちてしまった。


死んでしまいたかった。


必死にこらえていた涙が、ぽろっと零れ落ちる。

一度落ちたら、もう止まらなかった。