違う。
違う、違う、違う。
プリントを拾っただけだ。
ふたりきりだったから、しょうがなくだ。
他に人がいたら、絶対に見て見ぬふりをしていた。
迷いもしなかった。
でも、あのときは。二人だけだったから。
“天使のあたし”は、無視することができなかったから。
かわいくいれば。愛想よくしていれば。損はないって。
ずっと、そう思ってきた。実際、今まではそうだった。
――それが、仇になった。
息が浅くなる。逃げたいのに、足が動かない。
怖い。
怖い。
ほんとうに、怖い。
「……っ、ごめんね」
声が、思ったよりも細くなった。それでも、ちゃんと笑おうとする。
「あたし、今ほんとに……考えてなくて。それに、彼氏になる人は、ちゃんと好きな人がいいなって思ってて」
言いながら、左手で自分の腕をぎゅっと掴む。震えているのが、ばれないように。
弱いところ、見せちゃだめ。泣いたら終わり。怯えたら、負け。
そうやって、何度も自分に言い聞かせてきた。



