ロマンスに、キス




スマホを握りしめて、頭の上まで勢いよく持ち上げる。

このまま投げ捨ててしまえばいい。
全部、どうでもよくなる。


そう思ったのに。


結局、腕は止まったままだった。



画面に映る自分の指が、少し震えている。
投げる勇気も、壊す覚悟もない。



時間を確認して、スマホをポケットに押し込む。
深く息を吐く。


面倒くさい時間になった。


呼び出しをくらっているから、いったん教室に寄ってカバンを片付ける。

ほんの数秒だけなのに、教室に足を踏み入れた瞬間、視線が肌に刺さる。


……やだな。


誰も何も言ってないのに、見られている気がする。


それでも、目が合った子には、反射的ににこっとしておいた。
口角を上げて、ちょうどいい角度で。


愛想よくしておいて、損はない。
そうやって生きてきたし、これからも、たぶん。


廊下に出るも、足取りは、どうしても重くなる。



屋上。
絶対に、入りたくない場所だ。


階段を上りながら、心の中で何度も唱える。


いませんように。
いませんように。


屋上の扉の前で、深呼吸をひとつ。
肩に力が入っているのが、自分でもわかる。


覚悟を決めて、扉を開けた。



「柏谷さん、来てくれてありがとうっ。この前も、助けてくれてありがとね」



弾んだ声。
見覚えのない顔。

……まったくもって、覚えていない。