教室に入って、自分の席に座った瞬間。
待っていたかのように、ワッと人が集まってきた。
「柏谷さん、佐野くんと付き合ってるってほんと?」
「いいなあ、佐野くんとお似合いなの、柏谷さんしかいないよね」
……お似合い、なんて言わないでほしい。
「佐野くん?とは付き合ってないよ〜。第一、今初めて名前聞いたもんっ」
少し首を傾げて、わざとらしくない程度にかわいこぶる。
――イメージは崩せない。かわいい私でいなきゃ。
佐野。あのヘッドフォン男、そんな名前らしい。名前を知ったところで、印象が良くなるわけじゃない。むしろ余計に腹立つ。
「そうなの? どっから噂出たんだろーね?」
誰かが首をかしげる。もちろん昨日のアレしかない。でも知らないフリをしておくのが賢い。
「佐野くんかっこいいから、柏谷さんしか釣り合わないと思うなあ」
……やめてほしいなぁ。あたしを、あの男と同じレベルに並べないで。
「じゃあ、その佐野くんのこと教えてくれない?」
声のトーンはあくまで柔らかく。でも内心は、まったく興味がない。むしろ、知りたくもない。


